【イラスト】「理想の彼女感ハンパない…」もはや俺の嫁間違いなしの”美少女”イラスト集
■"刹那の切なさ"を捉えておきたいというのは絵を描くモチベーションの1つ
──1970年代後半から活躍され、音楽カルチャーと親和性のある江口先生ですが、意外にもLPジャケットのお仕事はされてないと伺いました。
「そうなんですよ。僕がイラストの仕事をするようになったのは、レコードからCDへの移行期。レコード屋さんからLPが消えつつあった時代ですね。だから(LPジャケットの基本サイズである)31.5cm×31.5cmに描くことにはずっと憧れていて。CDもいいけど、やっぱりLPは、サイズの分だけ見る側に訴えてくるものが強いんですよね。ジャケットの仕事がたまってくるごとに、『いつかこれをLPサイズにしてまとめたい』という気持ちが大きくなっていって。前作の画集『step』を作ってるときに『これが売れたら次はLPサイズの画集を』と担当編集者にアピールしてました。そういう意味で40年くらい仕事してきた中でも、『ついにひとつの夢が実現できた!』という1冊です」(江口寿史氏/以下同)
──CDジャケットを手掛けられる際は、どのようにインスピレーションを広げられるのですか?
「基本はその音楽を聴いてイメージを膨らませる感じですけど、先方から明確なオーダーがある場合もありますよ。最新の仕事だと、SEKAI NO OWARIのシングル『umbrella / Dropout』のジャケットはFukaseさんから『水玉のワンピースを着ている女の子が振り向いている絵を』というオファーがありました。傘を差してるのは僕の付け足しで、それは曲名が『umbrella』だったからなんだけど、傘を差した絵はあまり描いたことなかったからいい機会だな、と。こういう仕事は職人に徹することができてけっこう楽しかったりしますね」
──やはり「江口先生の描く女の子をジャケットに使いたい」という希望は多いのでは?
「今回のジャケットアートワーク集の表紙にもなっている、銀杏BOYZのアルバム『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』は、峯田(和伸)くんから「『ストップ!!ひばりくん!』連載時の表紙をそのまま使いたい」というオーダーでした。ただ昔のアナログの原稿をデジタルに変換する際に、細かいゴミを処理するのがめちゃくちゃ大変で。結局、ポーズや構図はそのままに新しく描き直したんです。でも今考えるとパンクバンドだしね、むしろ汚いままでもよかったのかなって。まあ、峯田くんはやさしいからキレイになった絵を喜んでくれましたけどね」
──大きな瞳でこちらを見つめてくるひばりくんのなんとも言えない表情が印象的です。
「今の言葉だと『エモい』って言うのかな。うれしいんだか悲しいんだか、はっきりしない微妙な表情。若い子たちが楽しそうに盛り上がってる中で、ふとそういう表情をする瞬間ってあるじゃないですか。あれってたぶん『今この時間は二度と戻ってこない』ということを、意識的なのか無意識的なのか、でもどこかで気づいてるんだと思う。そのはかなさというか、"刹那の切なさ"みたいなものを捉えておきたいというのは絵を描くモチベーションとして1つあるかもしれないです」
■「自分が女性だったらこうありたい」という憧れを絵に投影
──本書に収録されているジャケットの中で最も古いものは92年。実に30年近く前なのに、江口先生の描く女の子は今見ても色褪せることなく洗練されたイメージあります。
「それはおそらく、僕がイラストレーターとしてはどこまでも大衆的だからだと思うんですよ。だけど大衆的であるためには、常にその時代のポップを追求する必要があって、ようはミーハーなんですけどね(笑)。だから『時代を超える画風』とか言ってもらえるのはうれしいけど、けっこう時代ごとに微調整をしてきてますし、最旬を描きたいという思いは常にあります」
──2015年に「ビタミン炭酸MATCH」ポスターで手掛けた広瀬アリス、広瀬すず姉妹のイラストも大きな話題になりました。
「あれももう5年前か~。広瀬さんたちもすっかり大人になられて。お二人とも美人ですけど、特にすずさんは黄金比というか、本当に整った顔立ちですよね。個人的にはもうちょっと不揃いな揺らぎが入った顔立ちの方が好みではあるんですけど(笑)」
──手が届くような、リアリティのある距離感の女の子?
「愛嬌がある感じですかね。数年前に街を歩いている女の子に声をかけてイラストにするというシリーズをやってたんだけど(画集『素顔~美少女のいる風景』)、吉田拓郎さんから『いるよねー、こんな子!俺、ここに描かれてる女の子たちみんな知ってる気がする』と言われて、それがすごくうれしかったんですよ」
──本書の峯田さんとの対談では先生が惹かれてきた歴代女性について語られていますが、2020年夏現在モデルとして描いてみたい女の子はいますか?
「最旬だと韓国のキム・ダミさんですね。『梨泰院クラス』の前、デビュー作の映画『魔女』からチェックしてましたよ(笑)。ちょっと前はペ・ドゥナさんも好きで。韓国の女優さんには定期的にいいなと思う人が出てきます。日本の女優さんだと黒木華さんが好きですね」
──時代ごとに変わるとはいえ、先生の描きたい「美少女の指標」みたいなものはあるんですか?
「根本的に媚びない感じが好きです。昔から、わかりやすく男ウケするポーズは描きたくないというのがあって。たぶん『自分が女性だったらこうありたい』という憧れを絵に投影してるんだと思います。女性に生まれてこなかった悔しさで描いてるんで、僕は(笑)」
■後輩からも影響を受けています だって僕も同時代で活動するイラストレーターだから
──「美人画」という美術様式がありますが、先生もまた現代の代表的な美人画家の1人です。
「最近はSNSで発表しやすくなったからかな、“女性美”をモチーフにイラストを描く方がかつて以上に増えた印象がありますね。僕も美人画に限らず魅力的な絵を描く人は世界中、有名無名問わず片っ端からインスタでフォローしてますよ。盗んでやろうと思って(笑)」
──江口先生が"盗む"? 中村佑介さんが公言しているように、先生から明確に影響を受けた新世代のイラストレーターも多いと思うのですが。
「それは当然、美術様式というのは系譜として繋がれていくものですから。僕も上の世代からはたくさん影響を受けてきました。中でも女性の描き方では林静一さん」
──「小梅ちゃんキャンディ」で知られるイラストレーターですね。
「林さんは漫画もめちゃくちゃカッコよくて大ファンです。特に横顔を描くときは、いまだにものすごく意識しますね。意識するというのは、「林さんに似ないように」意識するんです。ものすごく引力のある画風なので、林さんから離れることを常にイメージしてます。それと同時に、新世代と呼ばれる人たちにも同じように影響を受けています。それは僕が彼らと同時代で活動する描き手であるからで、対等ですからね。下の世代に影響与えるだけじゃなく、こっちだっていただくよ、っていうね。まだ負けたくないというか、常に最旬を追い求めていたいという意識があるからなんです」
■『ひばりくん』ではできなかった?漫画界に革新をもたらした代名詞「美人画」の確立
──それでもなお、江口先生の画風は誰にも似ていません。特に「美人画」にもたらした革新は大きかったと思います。
「昔の僕の絵って、ずっと誰かに似てたんですよ。たとえばちばてつやさん(『あしたのジョー』などで知られる漫画家)。要は昔の少年漫画の流れの絵ですね。もともと僕は絵を極めるよりもギャグを作ることに興味があったからそれはそれでよかったんだけど、大友克洋さん(『AKIRA』などで知られる漫画家)が登場して、それまでの漫画の描き方に説得力がなくなっちゃったんです。具体的に言うと、大友さんは鼻の穴や鼻梁、ほうれい線までちゃんと描写していた。その衝撃というかね。なんとかこれに対抗しなければ自分は絵を描いている意味はないんじゃないかと危機感を抱いたんですよ」
──たしかに鼻の穴を描写しつつ、かわいい女の子を描くのは難しそうです。
「漫画にしろイラストにしろ、目に見えるものを全部描けばいいってわけじゃないですからね。だから『ひばりくん』くらいからかな、80年代前半はずっと苦闘してました。どこまで描いてどこまで消すかの試行錯誤を繰り返しで。でも結局、『ひばりくん』では鼻の穴まで描けなかった。意識的に描くようになったのは『「エイジ」』からで、だけどまだあんまりかわいくならない。ようやく『パパリンコ物語』で鼻の穴のある可愛い女の子を描けるようになりました。そこでやっと、誰にも似てない絵になったんです」
──そのときすでに『週刊少年ジャンプ』でもトップ人気の漫画家でありながら、研究してもがいて到達した画風だったんですね。
「プロの世界に入ると『こりゃ敵わないな』という天才を間近に見るようになるんです。だけどある点においては、その人を超えられるかもしれない。そのためには努力するしかないんですよね。現代はpixivやSNSで"絵師"として気軽に自己表現ができるようになったせいか、いい絵を描くのに『別にプロにならなくても』と言う人も増えてるみたいだけど、天才の仕事を間近にできるという意味でもプロに挑戦するのって悪くないと思うんですよ」
■大ヒット漫画家にはいろんな才能が必要 僕は絵を磨くこと以外定着できなかった
──80年代に数々のヒット漫画を飛ばしてきた江口先生ですが、漫画家であることを知らない世代もすでにいるかもしれません。
「そうですね。絵師という言葉が一般的になって、絵だけ描いてても存在できるいい世の中になったというか(笑)。僕なんか10年くらい前はアンチばっかりでしたよ。『漫画が描けなくなったイラストレーターだろう』とか、『漫画から逃げてイラストばっかりやって』とか、マイナスな感じで言われることが多かった(苦笑)」
──未完の作品や、休載することも少なからずありました。それでも再開するとたちまち読者投票1位に。
「当時のジャンプ編集長からは『ほかの漫画家は毎週1週間で描いてるんだ。2、3週間かけて描いて1位になるのは当たり前じゃないか』と言われて、返す言葉がなかったですね(苦笑)。僕にもっと強力な才能があればね。漫画家というのは絵だけうまくてもダメで、長く続けることも含めて本当にいろんな才能が必要な職業なんです。僕の場合、絵については多少自信が持てるくらい磨いてきたつもりだけど、漫画としてそれを定着することがうまくできなかったという思いは、この40年ずっとあって。でもやっぱり漫画大好きですから描きたいですよ、うん。人生も残り少ないしね、漫画を描きたいですね」
──先生の新作漫画を待っているファンはたくさんいますし、一方でイラストレーターとして活躍を期待されている方も大勢います。今後の抱負もお聞かせいただけますか?
「イラストもオファーがある限りは描き続けていくと思いますよ。何十年もずっと途切れず仕事がいただけるというのは恵まれてる事だと思うから。音楽方面からの仕事もまた増えてるので、もうちょっと溜まったらまた『RECORD2』を出したいですね(笑)。最近はアナログでリリースするアーティストも増えてるから、LPでもどんどん描いてみたいです。なのでレコード会社の方、オファーよろしくお願いします(笑)」
文/児玉澄子
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August 03, 2020 at 06:40AM
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